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不況下で伸びるダイレクトメール
カギはデータベースと可変印刷システム

―― SHOWA NEWS No.93 (02年5月10日号より)


年率5.4%!!
厳しい経済環境にありながら、昨年の広告費は堅調に推移したようです。
広告代理店の電通がまとめた『平成13年('01)日本の広告費』によると、2001年の日本の総広告費は6兆0,580億円、前年比99.1%で、ほぼGDP並みの推移といったところですが、6兆円超は2年続きの高水準でした。
分野別では、新聞広告費が対前年96.4%と大きく落ち込み、テレビ広告費も99.5%と前年実績を下回ったのに対し、セールスプロモーション(SP)広告費は堅調に推移して、折り込み、交通広告、POPが微増、さらにダイレクトメール(DM)はプラス5.4%で3年連続の高水準成長を記録しました。全体としては、マスコミ広告が不調、小規模プロモーションが好調という傾向となっています。
ダイレクトメールの活況について、報告書は、
《DMは3,643億円、前年比105.4%。平成13年は前年の伸び率を下回ったが5.4%増と好調であった。これは大口差出のDMが前年比8.5%増(封書5.5%増、ハガキ13.3%増)、普通郵便物2.0%増と増加したことによる。封書に比べてハガキの前年に引き続く大幅な伸びは、郵送コストの低減化を目指すものである。13年は通信(マイライン)、生損保、飲料、クレジット、IT関連、証券の伸びが目立った。地域別では東京を始めほぼ全国的に伸びたが、特に関東、近畿、東海、九州の伸びが高い。毎月の差出状況では、4月から7月まで2ケタの伸びを示した。》
としています。コスト低減のため、封書からハガキにシフトした需要者も多く、単価が下がったうえでの5.4%増ですから、かなり注目すべき数字といえます。
日本印刷技術協会の統計でもセールスプロモーション費の伸びが顕著です。同協会では、独自調査などをもとに、昨年後半の推移を次のようにまとめています。
《広告売上前年比は、8月から前年割れとなり10月も0.7%減と3カ月連続の前年割れとなった。景気後退の影響が本格的に現れてきた。
分野別に見ると、マス4媒体は紙媒体も電子媒体もすべて3カ月連続のマイナス成長である。一方、交通広告、SP・PR・催事は、8月はマイナスだったが、9月、10月と前年を上回った。とくに10月は前者が7.5%増、後者が13.7%と大きく伸びた。》

好調の背景
ダイレクトメール好調の背景はどこにあるのでしょうか。
要因のひとつは、デジタルメディアに対する印刷物の優位性でしょう。現段階では、インターネットに代表されるデジタルメディアに比べ、印刷物の可読性ははるかに高いものがあります。当然のことですが、インターネットユーザーでない人にもDMは届きます。デジタル端末がなくても読める簡便性は、われわれの日常生活によくマッチしています。
アメリカで早くから指摘されていることですが、ホームページのアドレス告知に、DMが効果的だという現実もあります。インターネット広告でアドレスを宣伝するより、DMで宣伝したほうが、低いコストで高い効果をあげているのです。
もうひとつの要因として、ダイレクトメールのノウハウが昔より各段に進化していることがあげられます。
凸版印刷はこの4月、銀行などクレジットカードの運営会社向けにDMの反応率を高めるデータベース解析サービスを始めました。顧客データベースから、特定の商品やサービスに興味を持ちそうな顧客を抽出し、DMの反応率を最大7倍まで高めることができるとのことで、印刷・発送まで凸版が請け負います。一般にダイレクトメールの反応率は1%前後とされていますが、テストとして実施した銀行系カードの場合、これまでの7倍の反応が得られたということです。

反応率20倍という例も
この凸版印刷の例に見るように、現代のダイレクトメールは情報技術(IT)を援用する高度な情報処理業務となってきています。少なくとも宛名は変えなければならないという意味で、DMはもともと可変印刷(バリアブル・プリンティング)の一種ですが、これがデータベース技術やオンデマンド印刷と結びついて、メディアとしての力を飛躍的に向上させているのが現状です。
もうひとつ例をあげておきましょう。
1年余り前、アメリカの市場調査・コンサルティング会社CAPベンチャーズの幹部が来日して、新聞のインタビューに答えたことがあります。CAPベンチャーズは印刷市場に明るく、全米印刷工業会の報告書作成などにもかかわり、日米でオンデマンドプリンティングショーを主催している会社です。昨年はじめの来日も、ODPショーに合わせたものだったと思われますが、この幹部がいうには、アメリカにおける通常のダイレクトメール反応率は1.5%だが、これを可変印刷に代えると30%に跳ね上がるというのです。じつに20倍の効果向上です。こうした例を踏まえて、幹部はオンデマンド印刷とバリアブル印刷の将来性を強く指摘していました。とくに、技術の先行しているオンデマンド印刷については、2005年までの伸びを年率20%と見込んでいます。

日本市場に乗り込む広告最大手
このようなダイレクトメール市場の活況を背景に、世界の広告代理店が日本でのダイレクトマーケティング事業を拡大する構えです。
最大手広告代理店の一つオムニコムは、このほど、マスコミ広告以外を担当するDAS部門のアジア統括部を日本に置くことを発表しました。DAS傘下法人の連携を強め、主として外資系企業を対象にサービスを展開するとのことです。オムニコムは、ITバブル後の経済の冷え込みにもにもかかわらず、昨年の最終四半期決算が15%の増益となるなど好調が伝えられ、世界1位とも2位とも(統計によって異なる)いわれる代理店(グループ)です。
そのほか3大広告代理店の米IPGグループ、英WPPグループが、いずれも日本でのネットやダイレクトメールによる顧客獲得支援、顧客情報管理事業を開始しています。
B2C(企業対消費者)サービスというと、Eコマース(インターネット販売)だけを考え勝ちですが、現実にはダイレクトメールが大きな役割を担っています。デジタルメディアにも強い大手広告代理店が、そろってダイレクトメールに力を入れている現実は、いろいろ考えさせるものがあります。

さらに強まるオンデマンド性
拡大するDM市場において、印刷業界の受注は増えているのでしょうか。個々には、増えているとする印刷会社もありますが、包括的なデータは見当たりません。印刷業界全体が市場拡大の恩恵を受けているのではなく、恩恵は一部に片寄っているのではないでしょうか。
ITを援用した印刷物というダイレクトメールの性格は、これからの印刷を考えるうえで示唆的です。企業のプロモーション活動や情報メディアのターゲットが細分化される中で、印刷物も細分化・個別化への対応を迫られています。具体的手段としては、データベースを使いこなすことが必須です。
また、オンデマンド性もこれからますます要求されます。印刷の仕事はいつも急ぎだという意味で「あらゆる印刷物はオンデマンドである」と言われたりしますが、この比喩が今後は現実に変わっていくのではないでしょうか。
(02.6.12)
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