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ガリ版ネットワーク日誌[2000年12月]


12月某日
12月2日からロードショー公開された新藤兼人監督作品「三文役者」を新宿の映画館に見にいく。だいぶ前に明石の安藤信義さんから「裸の島」の台本を新藤監督から依頼されてつくった、「三文役者」にも小道具として登場する、と聴いていたのでちょっと楽しみにしていたのである。残念ながらはっきりとはわからなかったが、合宿所で殿山泰司役の竹中直人が手にしていたのがそれだな、と想像をたくましくした。
内容は、本人自らが“三文役者”と称した名脇役タイやんこと殿山泰司の一代記である。彼とガリ版の関わりはといえば、長い役者人生におけるガリ版台本につきるが、軍隊時代にガリ版切りの仕事についていたことも加えておこう。
「中隊の事務所でポラポラしてるのは本当にラクチンであった。この隊へきてからおれは上等兵になったのだ。ヒマだからポルノを書いては謄写版で刷り、製本までして、兵隊さんに配布してやった。おれが軍隊で善行したのはこれだけ。」(『三文役者あなあきい伝 PART 1』 ちくま文庫)

12月17日
前日から鳴門市にいる。この日、好天気を期待したが、どんより空からは、午後には雨が落ちてきた。
鳴門市ドイツ館の催し「BANDOプログラム再現イベント」がはじまった。催しの目玉はもちろん、80年前のドイツ人捕虜制作のガリ版多色刷(演劇・音楽会プログラム)3点の復刻実演である。復刻者は、徳島県牟岐町出羽島で“坂本謄写堂”を経営し、ガリ版ミニコミ「謄写技法」発行人でもある坂本秀童さん。こうした仕事をするのだから60代、70代の熟年世代をイメージする人が多いようだが、彼はまだ44歳である。
2階では「特別企画展 収容所でのアート、BANDOプログラムの美」が開催された。90点の館所蔵オリジナルプログラムのうち18点が展示され、80年の歳月をくぐりぬけた作品群は、デザインの良さと味わいのある色づかいで来場者を魅了した。「独特の色彩感覚がすばらしい」「ごっつい、いいやんかぁ」などの声を聞いた。
その他に武田正一コレクション、孔版多色刷の板祐生作品(祐生出会いの館)、エスペラントによるミニコミ誌「オリエンタ・アジーオ」(日本エスペラント学会)、大正期の謄写版(ホリイ株式会社)などが特別展示された。武田コレクション以外は、ドイツ人捕虜の在日時代のガリ版文化を紹介した展示である。
ドイツ館を通じて関西、四国、九州等のガリ版ネットワーク会員に案内状を送付していただいたので、川上巌さん(岡山)、小国武司さん(香川)、北浦満治さん(東京)らが参加された。祐生出会いの館からは青砥徳直さん(鳥取)父子が参加、県外からの参加者としてイベント会場で紹介された。
ロビーで開催のガリ版体験コーナーには4台の謄写版が用意され、若いカップル、子どもなどを中心に一日賑わった。北浦満治さんが“先生役”で大活躍だった。謄写版初体験者が多く、参加者「謄写版てプリントゴッコに似てるね」、北浦さん「それは逆。プリントゴッコが謄写版に似てるんです」など会話もはずんでいた。

12月某日
ことしも残り10日を切ったのに事務局の仕事は終わらない。入会希望者、器材の寄贈(暮れの大掃除がらみか)の連絡がある。
同じ日に札幌から、「年賀状をつくるのでハガキ版がほしい」という電話が入った。ちょうど、ハガキ版寄贈の電話を受けていたので、受けとりに出かけ、その日のうちに送った。
団体、グループなどの機関紙づくりをガリ版でという声を聞くようになった。「ワープロの会報は無味乾燥」と言う。
21世紀、ガリ版は元気になるような予感がする。商品としては絶滅危惧種どころか、ほとんど絶滅種だが、孔版人口は多種存在している。「器材はあるのか?」と鳴門市ドイツ館の講習会(私は、「ドイツ人俘虜の作った印刷物と日本のガリ版文化」について話した)でも質問があった。私は、ガリ版ネットワークの存在を強調しておいたが、「ネットワーク“倉庫”が在庫切れしたら手づくりしましょ! ガリ版愛好者の知恵を集めて」と気楽に考えている。
(2001.1.5、志村)
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