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「板祐生の世界」展 開催経緯
稲田セツ子 「祐生出会いの館」


2000年2月に銀座・伊東屋ギャラリーで開催された「孔版画に生きた板祐生の世界」展の開催経緯を、先ごろまとまった「平成11年度祐生出会いの館活動報告書」から転載しました。(2000.9.8)

◇「祐生展」開催まで
平成11年9月米子コンベンションホールで開催された第五回【大山緑陰シンポジウム】(本の学校主催)において、自主分科会の一つとして『板祐生学入門』と題したパネルディスカッションを開催できる機会を得ました。この企画にあたっては、毎川秀巳氏、『本の学校』の塩見佐恵子氏、永井明子氏、志村章子氏の絶大なるご支援によるもので、多くのみなさんに『板祐生』を紹介できるまたとない機会でした。
これを契機に、この企画に関係したみなさんの話の中で『板祐生』の作品や資料を「東京でも展示できれば・・・」と淡い期待を発せられた言葉が志村章子氏の心に響き、志村氏の心からのご援助により『孔版画に生きた 板祐生の世界』が東京銀座伊東屋ギャラリーで開催できる運びとなりました。
志村章子氏は、川崎市在住のフリーライターで『ガリ版ネットワーク』を主宰されている方で、板祐生の研究家としても知られ、何度となく『出会いの館』においで下さり、祐生の研究と顕彰に、並々ならぬ情熱を傾けていらっしゃいます。志村氏はかつて、『伊東屋』の社史を手がけられたこともあり、前会長伊藤義孝氏とも親しい関係にあり、また、現社長伊藤高之氏とも親しくしておられます。
さらに、『伊東屋』の前会長伊藤義孝氏は旧姓を田辺といい、隣の町日南町出身であり、旧制米子中学(米子東高)を卒業されています。その後伊東家の養子となられ銀座『伊東屋』を継がれた方であります。義孝氏は平成4年にお亡くなりになりましたが、生前書画をよくされ、絵手紙は西伯町出身の持田卓人氏が主宰する「ちよだ画塾」で研鑚を積まれたことも深いご縁を感じます。付け加えますれば、義孝氏のお兄さまである田辺定義氏は川崎市にお住まいでしたが、本年1月百十歳の天寿を全うされました。奇しくも氏は、板祐生と同じ年にお生まれになっています。このような奇縁もありました。
志村氏を介し銀座『伊東屋』での展示企画はとんとん拍子に進み、11月終わりには開催期日も決定しましたし、展示企画に『伊東屋』様も会場を無償提供いただけるなど、できる限りのご協力をいただけることも決定しました。このように『伊東屋』様のご協力をいただけるためには、厳しい展示内容の審査もあるとのことで心配した時期もありました。
入館者が年々減少していく中で、ただ、手をこまねいていたのではなく、地方の文化を大都会で展覧し、一人でも多くの方に祐生の『美の世界』を観て、触れていただける機会がやってきたのです。スタッフ一丸となって頑張ることを誓いました。

◇「祐生展」を終えて
板祐生「東京展」が現実になろうとは、夢にも思わなかったことでした。これは、志村章子氏のご尽力による以外のなにものでもありません。記録集を編纂するにあたって改めて感謝申し上げます。
思い起しますと、緑陰シンポジウムを終えて反省会の折、青砥徳直さんが真剣な顔つきで「東京で展覧会をやったら、どんな反響がありますかね」といわれたことが、本当になろうとは誰も思いもよらなかったことでした。
志村氏が何度もお運び下さった誠意が、伊東屋の社長をはじめ、みなさま方の心を動かし、本格化したのは10月のことでした。伊東屋社長は「文房具屋のやる究極のイベントとしたい」とまでいって下さいました。
展示物も吟味し、「江戸趣味的」なもの、「時空(とき)を超えて喜んでいただけるもの」に目を向け、選びだしました。板祐生コレクションの神髄に触れていただきたかったのです。
とりわけ、『こけしコレクション』は玩具界を揺るがすほどの逸品があり、この度携えて行けたことの意義は大きく、こけし愛好家の熱を一層駆り立てたことでした。
この展覧会をご覧になったお方からは、「この温かさは何でしょう………」「このぬくもりは………」と、何度この言葉を耳にしたことでしょうか………。
祐生の作品とコレクションから感じとる『安らぎ』と『優しさ』、これこそ祐生が一生追求し続けた味わいでありました。東京の方々の確かな『目』と『価値観』に支えられ、毎日が感激の日々でした。そして、思いがけない感動の出会いも与えていただきました。
全国にこれだけ熱心な祐生ファンがいて下さることに一同胸が熱くなる思い出で12日間の東京展と大盛況裡に終え、帰路につきました。
日本人の手仕事の原点といってはばからない祐生の切り抜き芸術の世界を、都心で公開展示する機会を与えていただいたこと、そして会場の提供、広告宣伝、会場設営、グッズ販売にいたる全てにご援助いただきました伊東屋のみなさま方のご誠意に、心から感謝を申し上げますと共に、伊東屋のますますのご発展を祈ってやみません。
そして、祐生をもっと識りたいというお方が、必ず『祐生出会いの館』を訪れて下さる日のあることを心より信じています。
●SHOWA HP