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助田茂蔵さんの謄写版絵
田中 栞/編集者


助田茂蔵さん
(平成13年6月)
[2] 随筆『両葉草』に綴られた生き方
数日後、『花爺句哉』はないけれど、と言って『両葉草』(もろはぐさ)と題する随想集が送られてきた。同封の毛筆書簡に「進呈します」とある。『花爺句哉』は夫人・小芳さんの句と茂蔵さんの花の絵からなっていたが、この本にはお二人の生き方の姿勢ともいうべきものが、それぞれもの静かな筆致で綴られていた。タイプ製版は小芳さんと、長女・輝美さん。どこまでも家内工業なのだ。
本の始めのほうに、茂蔵さんがタンポポの白い冠毛をルーペで観察、2ミリにも満たない小さい種の中に、「素晴らしい造形」を発見して驚く場面がある。ピンセットで冠毛の数を数える茂蔵さん。 「なんとそれは百二十本以上もついていて、それがまた整然と円周に垂れているのです。……それだけではありません。そのパラソルの下についているタネの部分は、豪快というか、古代ギリシャの石彫家は、これを真似たのではあるまいか、と思われる程の、すばらしい彫刻が施されているのです。ミゾの起伏の正確さといい、少し上向きの角の大小といいねその配列の妙と色彩は、これを見て驚かぬ人はあるまいと私は思います」 この観察眼はどうだろう。真っ正面から微細な世界に飛び込み、省略やごまかしが微塵もない。
そして「カタクリ」との長い長いふれあい。春先のある時期、茂蔵さんは毎日、日が昇る前から近所のカタクリの大群落の中に身を置く。朝日の光を浴びたカタクリが6枚の花びらをゆっくりと開き始め、その開いた花弁を水平にすると、今度は花弁の長さの中央からそり返って、逆立ちを始める。そんな様子をじっと見つめ続けている。毎日毎日、それをもう28年も続けている。カタクリは芽吹いて花が咲くまでに8年かかると言われているが、助田さんはその生長の過程を、種まきから始まって、開花してしおれるまで、まんべんなく追う。カタクリと同じ速度で、同じ時間を生きているのだ。
助田さんは花の絵を描く時、「ありのまま」を描く。省略や修正をしない。だから虫食い痕があったり、しおれている花があったりする。そこに存在する状態と、限りなく誠実につきあう姿勢。言われてみれば、これこそ本来の姿勢であるべきだ。現代都会で、体面や形式ばかりを気にして、帳尻あわせの毎日を送っている私には、耳の痛いことがたくさん書かれていた。

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